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カーボンニュートラルとは?2050年に向けて企業ができること

2020年10月26日に行われた第203回臨時国会において「2050年カーボンニュートラルを目指す」ことが宣言されたことにより、日本においても「カーボンニュートラル」への注目度が一気に高まりました。ところで、「カーボンニュートラル」の正しい意味をご存じですか?

「最近カーボンニュートラルの話題がよく出るようになったが、実は正しく意味を理解していない……」

「カーボンニュートラルが企業に与える影響が知りたい……」

この記事では、上記のような方に向けて、

  • カーボンニュートラルの正しい意味やカーボン・オフセットとの違い
  • カーボンニュートラルが注目される背景
  • カーボンニュートラルが日本企業の活動に与える影響
  • カーボンニュートラル実現に向けた企業の取組事例

などについて、分かりやすく解説していきます。

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、ライフサイクルにおけるカーボン(二酸化炭素)の排出量を、ニュートラル(中立化)にすることを指します。簡単に言うと、地球上で生み出されるCO2(二酸化炭素)の量と、植物の光合成などによる二酸化炭素の吸収量を同じ量にして、実質的なCO2(二酸化炭素)排出量の「プラスマイナスゼロ」を目指す概念です。

企業におけるカーボンニュートラルとは?

ただし、企業における「カーボンニュートラル」は上記の意味とは少し異なり、企業が排出したCO2を、「排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)」によるCO2排出枠の購入などによって相殺する形で、実質的な「排出量ゼロ」を指す場合が多いです。

「排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)」とは、企業や国などの組織ごとに温室効果ガス(主にCO2)の排出を行える枠・量をあらかじめ決めておく制度です。各組織・企業に割り当てられた排出枠を超えそうな場合は、別の組織・企業などからCO2排出枠を購入できます。

このように、企業の自社努力だけではCO2削減目標の達成が難しい場合でも、CO2排出枠の購入などで埋め合わせることで、「CO2排出量の実質ゼロ」が実現可能となります。

参考資料:環境省「カーボン・ニュートラルについて

カーボン・オフセットとの違い

カーボン・オフセットは、カーボンニュートラルの前段階と言えるような概念です。

カーボンニュートラルでは「CO2排出量を実質ゼロにする」取り組みが求められますが、カーボン・オフセットでは、「CO2をどのくらい削減するか」、「いつ・どのような取り組みをするか」といった目標設定は企業側に委ねられています。

つまり、カーボンニュートラルとカーボン・オフセットは、「CO2の吸収・削減」の方向性は同じですが、「どのくらいCO2を吸収・削減するか」の目標が設定されているかどうかが大きな違いとなります。

大きな目標である「カーボンニュートラル」を実現するためには、カーボン・オフセットへの取り組みを深化させていく努力が不可欠だと考えられています。

参考資料:環境省「カーボン・ニュートラルについて

カーボンニュートラルが注目される背景

ここからは、近年カーボンニュートラルが注目される背景について解説していきます。

世界的な流れとして「カーボンニュートラル宣言国」が増加

地球温暖化防止の対策として、カーボンニュートラルは世界的な潮流になっています

2021年1月時点で、EU、イギリス、アメリカ、中国などの先進諸国が、2050年(中国は2060年)までのカーボンニュートラルを宣言しています。

また、2050年カーボンニュートラルを宣言した国の同盟(Climate Ambition
Alliance)には、121カ国とEUが加盟しています。

参考資料:Climate Ambition Alliance: Net Zero 2050

日本も「2050年カーボンニュートラルを目指す」ことを宣言

カーボンニュートラルが世界的な流れになっていることから、日本でも「2050年カーボンニュートラルを目指す」ことが、2020年10月26日に第203回臨時国会において宣言されました。この宣言によって、日本国内におけるカーボンニュートラルへの注目度が飛躍的に高まりました。

カーボンニュートラルが日本企業の活動に与える影響

ここからは、「2050年カーボンニュートラル宣言」が日本企業に与える影響について見ていきましょう。

排出量が高い「産業部門」等でCO2削減が求められる

まず、CO2を多く排出している部門としては以下が挙げられます。

  • 産業部門……鉄鋼や化学などの産業分野におけるCO2排出
  • 業務・家庭部門……住宅、ビルなどにおける空調・照明等の使用によるCO2排出

  • 運輸部門……自動車や物流におけるCO2排出

CO2の削減はすべての企業に対して求められますが、特に上記のようなCO2排出量が高い部門に関連する企業は、カーボンニュートラルに向けた対策をより求められることになります。

具体的に、「産業部門」、「業務・家庭部門」、「運輸部門」のそれぞれにおけるカーボンニュートラルに向けた対策・取り組みの一例をご紹介します。

  • 産業部門……鉄を作る高炉からのCO2排出を減らす「水素還元製鉄技術」や、セメントの製造工程で発生するCO2を原料や川下のコンクリート製品で再利用する「カーボンリサイクル」等

  • 業務・家庭部門……太陽光発電による創エネ技術と高断熱やHEMS(ヘムス)による省エネ技術で、住宅やビルで消費するエネルギーとつくり出すエネルギーをプラスマイスゼロにする「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」や「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」等

  • 運輸部門……電気で動く自動車や、水素を燃料にして動く自動車、船舶、航空機など、ガソリン以外の燃料の積極活用等

企業のCO2排出量削減を後押しする税制・補助金の創設

国は2021年度の税制改正大綱において、企業がカーボンニュートラルを促進するための設備投資、いわゆる「グリーン投資」に対して、特別償却や税額控除の優遇税制を行うと発表しています。

この「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」では、温暖化ガス削減に有用な設備であれば、以下の特別償却あるいは税額控除のいずれかを選択することができます。

  • 取得金額の50%の特別償却
  • 取得金額の5%の税額控除(温暖化ガス削減に著しく資するものは10%)

こうした優遇税制を活用することで、カーボンニュートラルを促進するのに有効な再生可能エネルギー(太陽光発電システム)などの設備を導入しやすくなるでしょう。

カーボンニュートラル(脱炭素)関連企業の成長にも期待

カーボンニュートラルを進める上で、テクノロジーは欠かせない要素です。

すでに普及が始まっている電気自動車や水素自動車だけでなく、CO2を還元・分解していく技術や、CO2を固定化させる技術を研究している日本企業にも注目が集まっています。

こうした「カーボンリサイクル」の分野で日本企業が成長することで、次の時代をリードしていける可能性もあるのです。

カーボンニュートラル宣言を行っている企業はESG評価が高まる

ここ最近、注目度が高まっている概念が「ESG投資」です。ESG投資とは、「環境・社会・ガバナンス」に重点を置いて企業を評価し、投資先を決定するという考え方です。ESG投資は、近年広がりを見せているSDGsやCSRなどの活動とも深く関わっており、その重要性は年々増してきています。

カーボンニュートラル宣言を行っている企業は、「環境」への配慮をしていることになるので、ESG投資において投資家からの評価を高めることができます。

カーボンニュートラル実現に向けた企業の取組事例

ここからは、カーボンニュートラル実現に向けた日本企業の取組事例をご紹介していきます。

1,600億円を投じ再生可能エネルギーへの転換を図る「東芝」

2020年11月に石炭火力発電所の新規建設から撤退することを発表した東芝は、2022年度までに再生可能エネルギー分野に1,600億円を投資し、洋上風力発電などの再生可能エネルギーを活用したインフラ事業への転換を図っています。

日本初のカーボンニュートラル・ステーションを実現した「阪急電鉄
摂津市駅」

阪急電鉄の摂津市駅は、日本で初めてのカーボンニュートラル・ステーションとして知られています。摂津市駅では、照明やエレベーターなどの電力使用量と水道使用量からCO2の年間排出量を約70トンであると算出し、太陽光発電やLED照明の導入によって年間で約36トンのCO2削減を行いました。

直接的な削減が難しい残りの34トンについては、「排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)」を活用してCO2排出枠を購入することで相殺しました。この事例は、企業がカーボンニュートラルを実現していくうえで分かりやすいモデルケースになるのではないでしょうか。

参考資料:環境省「カーボン・ニュートラルについて」p04

まとめ

日本でもいよいよ「2050年カーボンニュートラルを目指す」ことが宣言されたことで、カーボンニュートラルへの注目が高まり、企業の脱炭素対策がこれまで以上に求められていくでしょう。

その一環として、企業の「グリーン投資」を促すための「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」の導入も進んでいます。これにより、企業が排出するCO2を削減することができる「太陽光発電システム」といった設備の導入が、より行いやすくなります。

カーボンニュートラルは、世界的な潮流であり避けることはできません。企業も脱炭素に向けた対策を迫られますが、これをピンチとして捉えるのではなく、企業を成長させるための「チャンス」として捉えることが大切ではないでしょうか。